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スノードーム​

 ガラス窓の外に覗く果てない大地の向こうまで、しんしんと雪が降っている。
「やまないかなあ」
 この世界はずっと夜で、ずっと雪なのだ。きれいだけれどずっとおんなじ景色なのもつまらなくて、「いつやむかなあ」僕は窓の方から振り返って、テーブルの向かいに座る同居人に聞いてみる。
「神様が飽きるまでは」
 ぱちぱちと暖炉から薪の燃える音。賢そうな眼鏡をかけた彼はこともなげに目だけ上げて、難しそうな本の頁を繰りながら返事した。
「そうかあ」
 それなら仕方ない。この世界が夜なのも雪なのも神様が決めたことなのだから。僕は椅子に座り直す。
「でも、何で夜と雪にしたんだろう」
「きれいで良いじゃないか」
「そうかなあ。……あ、反転」
 一瞬だけ世界が上下逆さまに傾いてすぐ戻った。幻覚のようなその一瞬の後、窓の外はまた初めからとでも言うようにやや勢いを増して雪を降り積もらせていく。ううん、飽き飽き。
「やまないかなあ」
「……神様が飽きるまでは」
 同居人は繰り返す。やがて彼も飽きたと言うように本を閉じて、とうとう顔を上げた。
「でも俺は、このスノードームの世界は嫌いじゃない」
「そっかあ」
「本は退屈だがな。お前と話すのは面白い」
 そう言って彼は再び本を開く。退屈だと言っていたのにどうして読むんだろう。それに一体、この世界の何がいいんだろう。僕はまた窓の方を振り返って外を眺める。
「雪ばっかりで退屈だなあ」
「そんなに言うなら変えてやろうか」
「できるの?!」
 そんな、神様みたいなこと。僕は座っていた椅子を勢いよく蹴飛ばして二人の間のテーブルに手をついた。じいっと同居人の目を見つめる。同居人は一瞬面食らったような顔をしていたが、僕の挙動に目をぱちくりさせた後あははと笑った。
「笑ってないで、僕は真剣なのに」
 やがて悪い悪いと言いながら同居人は顔の前で手を振ってみせる。
「冗談だ」
「ええ、ひどい」
「すまんすまん。つい面白くて」
 僕は倒れた椅子を起こして再び窓辺に寄りかかる。
「やまないかなあ」
「……ああ、神様が飽きるまでは」
 じゃあ、仕方ないか。 この世界が夜なのも雪なのも神様が決めたことなのだから。
「神様のばーか」
「……悪いな」
「君には言ってないよ?」
 薪のはぜる音がする部屋の一室で、僕は引き続き同居人の読書の邪魔をすることにした。

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