ピエロの独り語り
そうだねかつてはいわゆるブラウン管の中の人だったんだよ。
ブラウン管って何だって? ああそうか、今はみんな、頭にチップを埋め込んで、そいつのチャンネルを合わせて観るんだな。
うん? チャンネルを合わせるとは何だって? ははは、すまないすまないこの道化、随分古くから生きているのさ。
まあでも、番組だってやってる内容はそんなに変わらないだろう。何年経とうが人の本質は変わらない、みんな人型のピエロの愚かな姿が大好きさ。
そうそう話を戻すとね。今じゃあこんな派手な化粧に奇抜な服を纏っちゃいるが、かつては一人の人間で、色々な番組に出演しては無理なことをやらされて、それでも笑いを取るような、当時の言葉じゃ「テレビタレント」だったのさ。
その無理なことの中の一つにね。ホーライの国だったか何だったか、ともかく仙境へ行って不老不死の薬を取ってくるなんていう、その当時にしても随分と奇怪千万で時代錯誤な企画があったのさ。
時代錯誤だろうそうだろう。しかし私は生まれついての道化だろう。人が笑えば何でもする。人の感情が動くなら何でもする。
そういうわけで足で千里、船で千里、空へ千里と駆け上がり、とうとうそのホーライまでたどり着いた。
テレビクルーなんてついてきちゃ危ないからね。全部私が撮影もしてね。ああ当時はこんなサイズの撮影機材があって、そいつで映像を撮っていたのさ。
ホーライまでついてどうしたかって。いやあ何とも素晴らしい国、金枝銀枝に色とりどりの珠が成り、そよぐ風は匂い立ち、泉も滝もみな酒だ。たちまち虜になりそうだったが、私は生まれついての道化だろう。与えられるものに満足しやしない。人に笑いを感動を与えてなんぼの商売だ。お手玉や玉乗りや漫談なんて遊戯はもともと極めていたけれど、そこでさらに大成して皆に喜んでもらえたよ。
そうして美男美女を笑わせて笑わせて笑わせてようやく、仙薬とやらが手に入った。さあ後は口にする姿を面白おかしく映したらそいつの映像を送って、今度は空で千里、船で千里、足で千里だ。これで一つ、番組企画が終わったんだね。
はははは、上手いこと言うねえ! その通りだよ! 終わったのは番組企画だけじゃなかったんだ! 戻ってきてみればあれからとうに、ええと、百年、千年? そのくらいは経っていてねえ。番組の企画どころかその番組も、テレビ局もなくなっていたし、聞いてみたら何だって、戦争があれから五、六回は起きて終わっていたというじゃないか。しかも今の世にこんな、人間の生身が外を歩くなんて考えられないだって。何とまあ愉快なこと!
しかし君、何年経とうが人の本質は変わらない。みんな人型のピエロの愚かな姿が大好きさ。ならば私のやるべきことは何だと思うね? そうだね、そうだ。人を笑わせ感動させる、それこそが私のあるべき姿さ。
幸いにも時間はたっぷりある。世界中の人を笑わせるのが新たな目標。何なに、この不老不死の道化にはたやすいことさ。
だから私は今、手始めにこうして全世界の番組をジャックしている。ああ、どうぞ銃で粉みじんになるまで打ってみたまえ。レーザービームで焼き切ってみたまえ。きっと面白おかしく復活劇を遂げて見せようよ。
さあ皆さまお立会い。ここに座します一人の道化、あなたに笑いと感動を届けましょう。