top of page

 

2019twitterまとめ

◆3つの単語お題ったー様シリーズ(https://shindanmaker.com/772443

「月光」「距離」「左利き」
 月光がこうして地上に届いているのだから、歩いて月に行けないものかと先輩は言った。
「何ですそれ」
「私は変わり者なんだ。左利きだから」
「……何です、それ」
「よく言われる」
 暗く笑う先輩が部の中で距離を置かれているのを自分は知っていた。
「素敵じゃないですか」
「え」
「自分も左利きですよ」

「三日月」「飴」「宇宙」
「さあ! 宇宙に行こう!」
 いつも唐突な友人の言葉にポカンとしていると、蜂蜜色の飴玉を渡された。
「やばい薬か何か?」
「失礼な、これぞ俺の大発明! 宇宙が見える飴玉だぞ」
「やばい薬じゃねえか」
 軽口を叩きながら口に含むと蜂蜜の味が広がり、やがて目が覚めた。……ああ、そうだった。俺の友人はずいぶん前に、宇宙ならぬ天に昇っていたのだ。
 今ごろきっと夢見た宇宙で三日月にまたがり、新天地でも目指しているのだろう。対する俺は逆立ちしたって宇宙に行けそうもない。
「……さあ、宇宙に行こう」
 俺は水を一杯飲むと、かつての友人に再び会うため眠りについた。

「虹」「本」「花」
 昔、あるところに、空に向かって毎日ひとつ、うつくしい言葉を紡ぐ男がおりました。
 雨の日も風の日もやまず紡がれた言葉はやがて、一冊の大層うつくしい絵本になりました。
 老いた男は満足いたしますと永の眠りにつき、うつくしい絵本はやがて虹色の花びらとなり、青い空へ上ってまいりました。

 

「秋」「空」「地獄」
 秋の空に凄いほどの紅葉が舞う情景は、まるで焔燃え盛る地獄の様子にも似ていた。

 

「無人駅」「記憶」「化粧」
 誰もいない夜の無人駅の化粧室で、鏡に向かいメイクをしている。灯りもないのに白い顔だけよく見えた。
 ――何故ここにいるのだろう。電車の通る音ではっとする。それより自分は一体誰だ。記憶がない。
 不安を感じた瞬間、鏡の中の女性が笑いかけ、気づいた。
 ああ、これは私ではないのだ。

 

「嘘」「本」「商人」
 怪しい商人から買った予言書は嘘ばかり吐く。
「明日は晴れる」
「大嵐じゃねえか」
「お前は勇者になる」
「俺は学者だ」
「あの子がお前の嫁になる」
「人妻だ」
 ポンコツだが当本は至って大真面目、予言を外すと落ち込んで管を巻く。
「お前は俺を捨てるだろう」
 ポンコツめ、それも外れだ。

 

「暗闇」「夏祭り」「地獄」
 灯りのない暗闇の中を歩き続けていた。閉鎖的な村だ。旅人を泊める家はなく戸はどこも固く閉じられている。
 歩き疲れた旅人が座り込むと、微かな祭囃子が遠くから聞こえてきた。
 真夜中である。しかし暗闇と疲弊が地獄にも思えた彼は迷わなかった。旅人は祭囃子の方へ歩き、二度と帰らなかった。

 

「猫」「粉雪」「宙」
 粉雪舞う夜のこと、一匹の老いた雄猫は道路わきで月を眺めていた。毛艶もよく鈴の首輪もあることから飼い猫であるのだろう。
「××」
「××」
 遠くの路地からは彼を探し呼ぶ声がするが、彼は変わらず冷たい土の上にじっと座り宙を眺めている。
「ああ。随分可愛がってくれた――」
 やがて月の光が彼に届き、魂を空へ運んでいった。

 

「妖怪」「絵本」「異世界」
 昔から妖怪もお化けも大好きで、ホラーも怪奇も愛しくて、妖怪にすら奇異の目で見られてきた。
「何で怖くないの?」
 うまく答えられなかったが最近思い出したことがある。
 幼い頃読んだ妖怪の絵本。実は絵本こそ妖怪で、いつも一人だった僕を食べては彼らの世界へ連れていき仲良く遊んでくれたのだ。

 

「ドラゴン」「剣」「悪魔」
「そこまでだ!」
 現れた若者にドラゴンは問う。
「何故私に剣を向ける」
「議会で討伐が決まったからだ。ゆくゆく脅威になり得よう」
 やがて若者は勝利した。
「せめて子は見逃してくれ」
「いいや、子の討伐も議会で決まった」
 悪魔め、と叫ぶドラゴンを若者はただ無表情に見つめていた。

◆お題のない小説シリーズ


蝶の翅よ
 シジミ蝶が飛んでいる。
 シジミ蝶の前には、豪奢な翅を持つ一匹のカラスアゲハがいる。
 シジミ蝶は彼女が羨ましくてたまらなかった。
「アゲハよどうか、私にもその翅を一度貸してはくれないか」
 カラスアゲハはにっこり笑うと何も言わず、ただその場に静止した。
 その時大きな虫取網がシジミ蝶の前で振り下ろされ、やがてカラスアゲハの姿がすっかり掻き消えてしまった。
「私はあなたのような翅こそ羨ましい」
 遠くから鈴の音のような美しい声が聞こえ、ハッとしたシジミ蝶はまたふらふら、空の散歩へ戻った。

 

夕立
 夏の雨の夕方を走る少女がいる。少女は傘も差さず、ただ高校の制服だけを纏ってなお裸足である。
 表情に悲壮はなくむしろ快活である。安アパートの二階窓から彼女を見つめる私以外、道には誰もいない。
 彼女は踊るように回りながら走っては道路を往復する。
 私は知っていた。彼女は去年、その学校という狭苦しい世界の呪縛に耐えかね若い身空で死んでいる。ちょうど今くらいの季節であった。
 彼女は解放を喜ぶように踊っている。やがてこちらに気がつくと、美しい笑みで大きく手を振った。
 私は何となくほっとして部屋へと戻った。

 

ある日の写真
 夕焼けと紅葉とがあったものだから、なけなしの芸術心を呼び出してスマホの画面を覗き込んだ。気まぐれである。
 しかしシャッターを押した、その瞬間に画面が一面の赤に染まり、辺りは風に舞う赤や黄の木葉が染め上げ――、やがて瞬きのうちに消えた。秋の悪戯だろうか。
 私は笑って、帰路を急いだ。

 

ある日の写真2
 小説の種子を拾った。種子は紅葉しきった桜木の、真っ赤な葉である。
 真っ赤な葉には秋の情景が描かれている。風に吹かれる姿は郷愁と哀切である。
 小説家が種子を拾うのではない。種子を拾った人が秋の日差しと空の高さ、そしてかすかに冬を含んだその風に、小説家となるのである。

 

ガラスの蝶
 おじさんの吹いたガラスは蝶の形をとると七色に輝き、ひらひらと飛び立ちました。
「夕方には帰ってこいよお」
 職人のおじさんののんびりした声を背に受けて、蝶は秋晴れの中を踊ります。
 初めに出会ったのは銀杏の木でありました。
「おやおや美しいお嬢さんだ」
 黄色い葉を散らしながら、老いた銀杏の木は笑います。
 ひらひらはらはら落ちる黄色い葉っぱにすっかり染まり、七色の蝶も黄色になりました。
「またいつか」
 銀杏並木を抜けますと、今度は果たして、楓散る寺院でありました。
「あらあらまあまあ、美しいお嬢さん」
 楓の木も秋風に揺られ真っ赤な葉を揺らしております。
 美しい木の葉の間をすり抜けるうち、七色の蝶もすっかり真っ赤になりました。
「またいつか」
 ひらひらふらふら、蝶は散歩を続けます。
「あっ、七色の蝶だ!」
 蜻蛉を捕まえに来た男の子たち。虫取網で蝶を追い回します。
 蝶はひらりひらりと避けますと、すっかり晴れてぐんぐん高い、青空の色に染まりました。
 こうすると、空ばかり見る男の子たちの目には映りにくいのであります。
「ちぇ、見失っちゃった」
 男の子たちが退散する頃、蝶は再びひらひらと散歩を再開いたしました。(未完)

bottom of page