2020twitterまとめ②
◆3つの単語お題ったー(https://shindanmaker.com/772443)
「夏祭り」「三日月」「深海」
りんご飴、ヨーヨー、金魚すくい。
「金魚すくい?」
「金魚をすくうの」
「……。お祭り、本当に行かなくて良かったの」
「良かったの」
祭りばやしと喧騒が遠くに聞こえる。
私は彼と海面にぷかぷか浮かびながら、月を見上ていた。彼が呟く。
「人魚救いはできてるものね」
「何それ」
私がふふっと笑うと、寂しがり屋の人魚の恋人も嬉しそうに笑った。
「黒猫」「時計」「秘密」
時計塔の下に住まう黒猫。彼女はいつも眠たそうにしているだけで、おいしい魚にも毛糸玉にも全然反応しないけど、この前私は見てしまった。
それは夜遅く時計塔の前を通った時のこと。普段昼にしか鳴らない時計塔の鐘が鳴り、大きな時計の針は逆転し、果てには亡霊のように微かな影が辺りに現れ出した。
私が息を飲んだその途端、彼女はその「にゃあ」という一鳴きで亡霊たちを消し去った。
密かな町の英雄。私は毎日お魚をお供えし、そのお魚が翌日には消えていることも全て秘密にしている。
「銀世界」「暗闇」「地獄」
一面白、白、白。息を飲むほど美しい銀世界。人影も木陰も、音もない。思わず呟く。
「ふさわしい」
足跡を一つつける。その途端、どこからか囁くような、それでいて悲鳴のような声が聞こえてきた。
「行けば地獄だ」
「引き返せ」
「何を。こうも美しい世界ではないか」
言い返して一歩、二歩。私はとうとう冷たい雪を背にして寝転がる。
吹雪だ、吹雪だ。待ちに待った死の吹雪。身の周りはとうに整理してきた。思い残すことは何もない。……ああ、後は夜を待つだけだ。
「薬」「人魚」「月光」
人魚に与えられたとっておきの薬は月光の海に捨てられた。
「良かったのかい。恋をしたんだろう」
「そうね」
「王子に」
「いいえ?」
通りすがりの魚は驚いた。しかし人魚は笑っている。
「私が恋したのは王子じゃないわ。むしろ彼が恋敵だから、この薬を捨てるのよ。……姫のために」
「永遠」「言葉」「詩」
神はある時、一人の若者に美しい言葉だけを与えました。
彼は詩人となり、その永遠の命をもって神をまた自然を愛を賛美し、人々は毎日それに酔いしれました。
ある時、幼い少女が不思議に思って聞きました。
「詩人さんは毎日一人で歌うばかりで、皆と過ごさなくて、辛くないの。悲しくないの」
詩人はにっこり笑うばかりで答えません。神から与えられた「美しい」言葉を述べるだけです。
永遠の詩人は美しい言葉だけを紡ぐため、今日も終わりのない旅を続けています。
「明日」「図書館」「雫」
明日も図書館に来てくれる?と僕が聞くと君は一粒涙をこぼした。
「いじめられてるんだ」
そう言った後は雫がボロボロ止まらなくて、僕は伸ばしかけた手をそっと引っ込める。代わりに言葉を送り出す。
「僕は君がいて楽しいよ」
うんうん頷く君を守ることができたらよかった。幽霊のこの身が恨めしい。
「かざぐるま」「薬」「オルゴール」
風車、オルゴール、お人形。病室のベッドは妹へのお見舞いでいっぱいだ。
「こんなに仲間がいるんだもの、苦いお薬だってへっちゃらよ」
ベッドの上のおもちゃを見回しながら昨日確かにそう言っていたのに、お転婆な彼女は仲間も僕も置いていってしまったらしい。
「お別れを」
白衣の男性が僕に言う。摘んできたばかりの雛菊が僕の手の中で頭をたれた。
「星座」「オッドアイ」「箱」
「君にいいものをあげよう」
笑顔の彼はいつも唐突。
「星座を詰めた箱なんだよ」
「それはよさそうね」
箱を開けば夜になり、浮いた星座が光り出す。
「面白いだろう、そうだろう」
「ええ、とてもきれい」
片方だけが金色に、きらきら光る彼の瞳を見て告げた。
「万年筆」「距離」「夏祭り」
今度の夏祭りは一緒に行けたらいいね、と書きかけた便箋をくしゃくしゃにして万年筆を取り直す。
「行こう」
悩んで悩んで、文字にもならないインクを零した後、彼はとうとう立ち上がり財布だけをポケットに入れて駅へと向かった。
「からくり」「幻想」「透明」
何をおいても再び会いたい。そのための対価も用意した。
ただ一目その姿さえ見られればもう悔いはない。悔いはないのだ。
「本当によろしいので」
「ああ」
「そうですか。人の欲には際限がありませんから」
困ったように苦笑する男に構わず頷いた。何も置いても再び会いたい、ただ一目で良いのだ、一目その姿さえ見られれば。もう悔いはない。
安っぽい千代紙の筒が付いたプロジェクターがぐるぐる回って、彼女の姿が現れる。しゃがんでいたらしい彼女はゆっくり、ゆっくりと立ち上がる。
ああ、ようやく会えた。声が聞きたい、姿に触れたい。
「さようなら」
その言葉に手を伸ばした途端、触れる直前で幻想はすうっと消え失せた。どうして、どうして。もう一目。
「そんなに都合の良いからくりではございません。ただ一目だけですよ。――人の欲には際限がありませんから」
一層の後悔だけがそこに残った。
「夏」「虹」「中毒」
「虹中毒です」
「はあ?」
「虹です、あの美しい光を見ずにはいられない病です」
彼女を連れて行った先の病院で医者は冷静にそう言い放った。虹中毒だと。真夏の暑さで苛立っているというのに何だその冗談は。
「じゃあ何だってこいつは俺を見つめ続けているんだ」
俺は虹でもなければきらめいてもいないぞ。ただの三十過ぎのおっさんで、患者は亡くなった幼馴染の娘というだけだ。
「虹は一時しか現れません。一時の憧れのようなものです」
「……」
彼女はこちらをきらきらとした瞳で見つめている。医者は微笑した。
「……心当たりがおありでは?」
「距離」「妖怪」「妖精」
「ちょっと何でそんなに離れるのよ!」
きらきらしい妖精は物陰に隠れた妖怪に怒る。
「だって君は美しいのに、僕は醜いもの」
「そんなの関係ないじゃない! 言わせておけばいいわ!」
妖精は彼を物陰から引っ張り出す。いつもそうだ、この妖怪は自分の見た目を恥じて――。
途端辺りに悲鳴が響き、妖精は地に落ちた。
「羨ましいから言ってるんだよ」
向けられた目は冷たかった。
「中毒」「雫」「幻想」
早く、早くくれと呟く老人に薬瓶を渡す。
「先生」
「ああ、ありがたい」
「……先生」
返事もせず焦点も合わない老人は最後の一しずくまでを飲み干すとやがて幸せそうな表情を浮かべた。
著名だった彼とはもう会話にもならないというのに、まだ俺はここに来る。
「先生」
幻想を見ているのは俺もなのだろう。
「黒猫」「ドレス」「地獄」
用意されたのは真っ黒な、夜闇に溶けそうな上等のドレス。
注文通り派手でないから何とか着こなせそうだ。
「どうかな」
鏡の前で回ってみると飼い猫が笑う。
「馬子にも衣装」
「ほめてないでしょ」
「あははは」
お互いひと笑い、その後の沈黙。
「じゃあ、行こうか」
地獄へ。まさか彼が案内人だったなんて。笑った猫も蝙蝠の羽を生やしていた。
「奈落」「本」「骨」
「ここは奈落だ」
人骨は笑う。
「そうかい」
構わぬ男は歩き出す。
「進めば地獄ぞ」
「退いても地獄さ」
「留まればいい」
「俺は小説家だ。表現の道は歩まねばならぬ」
「そうかい。ならそこが唯一の道だ」
人骨の指す方に一筋の光があった。
「先生、本はできそうですか」
目が覚める。
「何とか」
表現の道は険しく辛い。
「万年筆」「花言葉」「電車」
「あれが海駅」「あれは町駅」
揺れる車内、自慢げな万年筆と共に文字の国。
電車の外は景色と文字とが混ざり合う。
「俺はあらゆる文章を渡り歩いたからな、この国に詳しいのさ」
万年筆は軸を張る。小説家の祖父から譲り受けた「彼」は時おりこうして、祖父の国を案内してくれる。
「もうすぐ『家駅』だぜ」
目的の駅を降りれば見知らぬ花が一面に広がり、奥には見覚えのある木造建築が一軒見えた。
「ああ。圭花が咲いているな。圭太の花だ」
でたらめを言う万年筆に思わず笑う。
「そんな花ないよ」
「あるんだな、あったんだ。あいつの世界には」
万年筆は苦笑して、照れ臭い花言葉まで教えてくれた。
「スーツ」「図書館」「手紙」
仕立ての良いスーツに主人からの手紙を携えて、町の小さな図書館へ向かう。
「お久しぶりです」
児童向けの書棚の一番奥、借り尽くされてボロボロの絵本に声をかける。
「無礼なやつめ、隠遁場所に」
絵本に描かれた老爺が喋る。
「あなた様でしか解決できない依頼でございます。謝礼には素晴らしきインクを」
彼は苦笑し手紙を本に挟むと、子供の視線もそのままに図書館を後にした。
「機械人形」「夕焼け」「不老不死」
「きれいだろう」
「分かりません」
「甲斐のないやつめ」
男は笑う。夕日の海に沈み行く美しい様子。
「機械ですので」少女は冷たく答え「帰りましょう」と続けた。
「太陽はあなた様に毒です」
「……ありがとな」
沈む日だから問題ないよとは口に出さず、吸血鬼は優しい機械人形と帰り路についた。
「オッドアイ」「商人」「黒猫」
ねずみの尻尾、魚の骨。妙なものばかり売る商人がいる。接客も不器用で客はいつも私一人。
それでも彼は市場の端で夕方になるまで商売している。何でも美味しい魚をたらふく食べたくて始めたそうだ。
「みゃ、毎度、どうもにゃ……」
商人からは時々、尻尾が出ている。家の黒猫と同じオッドアイの彼。にっこり笑って別れると、私は夕暮れの町でひとりごちる。
「頑張っているし、今日は奮発しようか」
私は魚屋へと足を向けた。
「影」「空」「綴る」
三つの影が路地に伸びた夕暮れ。毎朝美味しい紅茶を淹れる君と嬉しそうに手伝う愛しい娘。
短い生を思い起こせばどこもかしこも幸せばかり。だからきっと君は幸せになれる。どうかそんな悲しい顔をしないでほしい。
「ありがとう。さようなら」
ああもう、声を出すのもやっとだ。もっとたくさん贈りたかった言葉を短く綴って目を閉じる。幸せな僕が昇るのはきっと美しい空だろう。