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カラノカイガラ

 砂浜にたくさんの貝が散らばっている。無人だ。辺りは波の音だけが響いている。太陽も季節もないから夜だか曇りだかもわからない。しかし足元だけは見えていて、遥かに広がる砂浜中に点々と色も形も様々な貝だけが落ちている。つい足元の、白い貝を拾って開けてみた。
 途端走馬灯のように人の生まれてから死ぬまでの映像が、目の前でホログラムのように映し出され、そしてあっけなく消えてしまう。残るのはまた波の音と自分と貝だけ。
「そうだった」
  思わず取り落とした、帆立に似た真白の静かな貝殻に、自分の職務を思い出す。これらを全て開けなければならないのだ。この砂浜中の。ありもしないお美しい人生ばかり閉じ込めた、これら全ての貝殻を。
「……きれいな地獄だな」
 かつて生きた自分とは縁のなかった、勇気もなかった、あるいは臆病だった、故に潰してしまった貝殻を。波の音の中、自分の人生の可能性を覗き見ては次の輪廻までを待ち続けている。

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