こちら宇宙喫茶店
パンケーキを星風堂に食べに行く。とは言え、星風堂とはただの店の名前でない。文字の通り風に乗り、星までたどり着かねばならないのだ。
「こんにちは」
「いらっしゃい。久しぶりだね。今日もパンケーキ?」
「はい、紅茶はアールグレイで」
店主はぴっかり光る顔で了承すると奥に引っ込む。星の顔に人の体。クリスマスツリーの上に飾るようなきらきらしい顔を持つ彼とはちょっとした縁で知り合った。
そもそもここのお客様はそんな人ばかりで、怪獣映画に出てくるようないかつい顔と尻尾の紳士もいれば、蛸の触手に蝙蝠羽の老爺、顔自体のない貴婦人、角砂糖より小さなお姫様まで様々だ。
「お待たせしました」
声と共にふんわりとバターの香りが漂ってくる。
いつもの通り何となく人間観察をしているのに気づいたのだろう「飽きないの?」の問いと共に星の店主はゆるく光って苦笑した。
ふんぞり返るようにして続ける。
「本当はね。ここまで来るのも難しいんだよ」
「なるほど、人助けはするもんですね」
「ははは。星助けだね。……どうぞ、ごゆっくり」
私はフォークに手を伸ばす。
その実ここに来るのは簡単そうで、そうでもなかった。
その昔、流れ星を拾ったことがあったのだ。これは空に返さねばと思ってあちこち連れ歩いたがとうとう返し方も分からないまま、やけくそで満天の夜空の日に屋根に上って風に浮かせたら二三度瞬いて空に消えていった。あっけないようなそうでないような。そんなことを思いながら数日したら窓辺にチケットが置いてあって、ひらがなで「いつでもおいでください」と書いてあったのである。
さっそく喫茶店に赴いて先の店主に聞いたところ、地球に食の勉強に来たは良いけれど帰れないし重力はひどいしで難儀していたのだという。
「星助けはするものだなあ」
しゅわしゅわと口の中で溶けるのは確かにパンケーキのはずなのに、炭酸でも口にしているようなどこか不思議な味がする。
紅茶にひとつ、星形の砂糖を溶かして口をつける。良い香り。しかしやはり、それも確かに紅茶のはずなのに、口の中で弾けるような感覚があった。
「ごちそうさまでした」
お腹に不思議な感覚を抱えながら星風堂を後にする。今日も大変美味だった。またパンケーキを食べに来よう。
私は店の外の宇宙に足を踏み出すとチケットをかざし、風に乗って帰路についた。