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アクアマリン

 雨に混じって一粒の宝石が空から落ちてきたから、余った鉢植えに植えてみたらある日とうとう芽を出した。空色の花が咲くのだという。果てはダイヤか金で一攫千金、金金金と現金だった彼はすっかりしょぼくれて日々の水遣り当番を変わってくれた。
「そもそも君はやりすぎなんだよ、水を」
 私の言葉に、人が金を得たいときは汗水垂らすのだよと苦し紛れの説教くれて今日も彼は勤めに出て行った。
 あくせく働くのもよかろうが、幸運は案外、努力から横を向いたときに転がっている。昔の私が彼に出会ったのとおんなじだ。
「雨からやっと逃げ出したのに、水ばかりでは苦しかろう」
 怠惰にかけては一家言あるこの私は当然、名誉の水遣り当番から背を向けて鉢植えを日当たりのいいところに移してやった。
「のんびり日でも浴びてなよ」
 今の私とおんなじように。

 後日咲いたアクアマリンの宝石のことは。彼に未だ話していない。

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