top of page

 

幻想の絵描きと王

 昔あるところに、幻想の絵を見せてくれる絵描きがいました。
 何でも彼に絵を頼むと、本物と見まがうほどの絵を描いて、それが人々に美しい幻想を見せてくれるというのです。
 人々は彼を求め、中には幻想の中から帰ってこない者もおりましたので、その国の王様はとうとう彼を捕まえました。
 王様は勇猛ですがまたわがままでもありましたので、人々は絵描きが殺されてしまうのではないかと恐れました。
「絵描きよ。どうしてお前は人々をたぶらかすのか」
 絵描きが縄を打たれ、わがままな王様の前に引き据えられた時、王様は不遜な態度で問いました。
 幻想を描く絵描きは笑って答えました。
「王よ。私が人をたぶらかしているのではありません。人は皆、心の中に幻想の種を持っているのです。治らぬ怪我をしたものは治る幻想を。友と喧嘩したものは、友と仲直りする幻想を。そして愛されないものは愛される幻想を皆持っています。そうした幻想の種のある者が、私の絵をきっかけに幻想を見るだけのことです」
 王は少し考えて答えました。
「なるほど。ならば私を恐怖させることはできるか。私の心には恐怖の種もひとかけらもない」
 勇猛な王様は胸を張りました。
 絵描きは早速絵を描きました。飢餓に苦しむ国民を、戦争で家族を亡くした国民を、怨嗟の声が聞こえんばかりの絵で表しました。
 すると王様は大変恐怖しました。なぜならそれは幻想どころか、この国の現実であると思わされたからです。そして王様はその時初めて自分の中に恐怖の種があることを、そして苦しむ人々が絵描きに幻想を求める理由をはっきり理解したのでした。
 王様は絵描きを許し、その後は大変穏やかで謙虚な王様として、有名になったということです。

 こちらの短編はお題をお借りして書きました。
 3つの単語お題った― https://shindanmaker.com/772443 
 お題:「不老不死」「絵描き」「幻想」​ ※「不老不死」は使用していませんが、絵描きは不老不死かもしれません。

bottom of page