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氷砂糖

 目が覚めると自らの姿はアンティークドールにでもありそうな可憐な少女の姿となっていた。
 無論、全くの夢の話である。
 アンティークドールというからには西洋風の顔立ちに大きな青い目をしているらしい。不思議なことに見えもしない筈の自らの顔が良く分った。

 椅子に座った足の床につかぬ、華奢で幼い体には、黒字に白のレースがついたゴシック調のワンピースを纏っている。
 広い、食堂のようであった。 遙か高くには金のシャンデリア、金の文様の入った白亜の壁、ワインレッドの高価そうな絨毯。

 染み一つない真っ白のテーブルクロスの上には銀色の深皿が乗り、同じく銀のスプーンが添えられている。

 そこには自分と、隣に立つ執事らしき人物しかいない。
「本日は、ガーネットがございませんでしたのでルビーで代用いたしました」
「そう。ありがとう」

 口からは当たり前のように返事が飛び出した。

 深皿の中を、宝石と思しき色とりどりの塊が、全て一様、均一な六角形となって埋め尽くしている。
 食べればきっと砂糖のような味がすることだろうと、なぜか本能的に知っていた。あるいは琥珀糖を連想したのかもしれない。

 しかし、あの淡く美しく、不揃いな砂糖菓子とは違って、目の前の宝石からは随分機械的な印象を受けた。
 銀のスプーンをくぐらせて、宝石を幾粒か掬い口へ運ぶ。スープのように口の中へ吸い込まれたが、予想外にひんやりとしていた。氷砂糖の冷たさである。
 甘味料で味付けられたような嫌に人工的な、それでいて氷のような触感が気に入って、一さじ一さじ私は口へと運ぶ。
「お口に合いましたか」
「ええ、とても」
 色とりどりの氷砂糖を平らげた私は銀のスプーンを置き執事の顔を見上げる。
 予想はしていたが、顔はなかった。黒塗りされて見えないのである。
 夢などそんなものだろう。私は妙に納得して、豪奢な金の枠で縁取られた窓の向こうの、星空を眺めていた。

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