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彼岸花と黄揚羽

 夏としか思えぬ日差しの中で彼岸花が咲いている。

 秋の花ではなかったかと黄揚羽が問えば、彼岸花の方でもがははと笑って、「なあに、太陽の方が間違えたのよ」と答えた。
「日に焼き切れたりはしないのか」
「面白いことを言う。曼珠沙華は地獄の花よ。業火に比べりゃましだろう」
「そうか」
 黄揚羽は納得してひらひら飛ぶ。彼岸花は続ける。
「お前もよ、地獄の蝶」
「俺もか」
「おう。夏の亡霊だろう」
「……。あ」
 彼岸花がそれを告げたとき、黄揚羽の翅は確かに一瞬静止した。そして黄揚羽は今思い出したとでも言うかのように、彼岸花の細い花弁に足を絡めて天を仰ぐ。
「俺も、日差しに騙されたな」
 諦めたようにそれだけ言うと、黄揚羽の姿はゆっくりと薄らいでいく。黄と黒の美しい翅は見る間に色を失って、陽炎のようなもやとなり、やがてそれも消えた。
「なあに、太陽の方が間違えたのよ」
 彼岸花もそれだけ言うと、夏としか思えぬ日差しの中でしゃんと背を伸ばし太陽を見据えた。
 暦だけは秋の、暑い日のことだった。

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