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金魚葬
十五年近く生きた金魚の葬式をして友人に笑われた冬の夜、天井に金魚の泳ぐ影を見た。月明かりに切り取られたような丸い光が天井を照らし、その中を不思議な魚影がただゆらゆらと泳いでいる。寂しさに任せてぼんやりと影を目で追う内、気づけば意識は天井を越え、夜の空へと飛び出した。
「ごめんな」
夜空の下で何に謝るかも分からない陳腐な言葉を投げる。意識は宙に浮かんでいて、足元には自分の住むマンション、上空にはまばらな星、目の前にはぼんやりと赤く光る魚。真っ暗なのに不思議と形ははっきり分かった。十五年のうちに鮒ほど大きくなった自慢の金魚。今日水槽を洗って彼の体を鉢植えに埋めたばかり。「魚の葬式かよ」、友人は感傷的だと大笑いした。だからきっとこれはそんな感傷的な僕の見る夢だと思っているのに、冬の夜風は本物であるかのようにしっかり肌を刺してくる。
夜空に浮かぶ僕の金魚は、僕みたいに感傷的になることもなく、恨み言を言うでもなく、ただ僕の回りをぐるぐる泳いで、泳いで、やがて満足したように空へゆらゆらと上っていった。
「……おやすみ」
朝目が覚めてみるとやはり何事もなかったようで、僕はただ布団の中で寝ているだけだった。当然だ。感傷的な夢なのだから。夢で金魚を弔うような男なのだから。友人の嘲笑を思い出す。
――「あ」。ふと気づけば手の甲には朝日を受けて虹色に光る、赤い鱗が数枚ついていた。
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